2018年!印象に残った作品 ジャズ・インストメンタル編 [音源発掘]

2018年も残すところあと僅か。
今は、なんとか年内に、2018年の印象に残った作品、その最終章にたどり着けて一安心と言うところ。

前回は、日本発の女性ジャズ・ヴォーカル作品を取り上げさせていただきましたが、今回は、同じジャズでもインストメンタルの作品から印象に残ったものを取り上げ、またお話を進めていくことにいたします。

前回は、私的思い出による印象作品の指向は強いお話となってしまいましたが、今回は、純に今年出会って強くに印象に残った作品を取り上げペンを進めることにいたします。

まずその最初の作品は、フュージョン系のアーティストとして登場したものの、元は本来のジャズのプレーに触発されて現在の地位を築き上げたアーティストの、伝統的ジャズの手法に回帰指向したとも言えるこの作品から、お話を始めることにしたいと思います.。

その作品がこちら、

Stolen Moments     Lee Ritenour.jpg


ギタリストのLee Ritenour 1990年の作品”Stolen Moments"です。

Ritenour といえば、一般的にフュージョン界の大物アーティストと言うイメージが強い人ですけど、かくいう私も、彼がデビューして間もない70年代半より、そのサウンドは聴き知りながらもフュージョンそのものというべきそのスタイルが気に入らず嫌悪し、これまで積極的に彼の作品を聴こうとはして来なかったのです。

ところが、今年の初め、TVで放映された昨年のワイキキにあるJazz Club、Blue Note Hawaiiでの彼のライブを偶然にも見たところ、フュージョンはもとより伝統的なジャズも演奏していて、特に伝統的なジャズの演奏は、名ジャズ・ギタリストWes Montgomeryの往年のプレーを彷彿とさせるものであった感じたことから、急ぎ私自身の中にあった彼への偏見を払拭して、そうした彼の演奏の聴ける作品を探し出会ったのがこの作品だったのです。

さて、そのライブの間にあった彼の紹介を見てなるほどと思ったのが、Ritenour のプロ・デビューはフュージョン界の超大物であるDave Grusin の引きよるものであったことからフュージョン界で活動が注目されるようになったとのことで、、本来ギタリストしては、 Wesからの強い影響を受け育ったと彼自身語っていたこと。

そういわれてみれば、70年代フュージョン・シーン全盛の時期、ソリッド・ギーターでガンガンと飛ばしていた彼のサウンドには、真新しいフュージョンの響きの中に、どこか伝統的な懐かしさを感じるものがあったようにも思え、その結果が、セミアコースティックギターに持ち替えたこのライブでのサウンドにも現れ、Wesそのものの姿として鮮明に聴こえて来たのだということを知ったのです。

そうして選んだこの作品、実はこのライブで演奏された曲の中で、90年代初頭の作品に収められた曲の演奏が、彼のオリジナル曲も含め、Wesの影響を如実に感じることが出来たことから、その時期の作品を探し出し聴いた結果見つけたもの。

中でも、気に入ったのがRitenourが、当時フィアンセだった妻のカーメンために書いたというオリジナル曲の”Waltz For Carmen”。

というところで、今回はこの曲を聴いていただくことから始め、後へとお話を進めることにしたいと思います。






この曲、私の見たライブの収められたちょうどその日が、Ritenour夫人の誕生日で、その会場に来ていた彼女にケーキがプレゼントされてから、この曲の演奏が始めれるという、Ritenour一家の心暖まる様子が収録されていて、その様子がなんとも印象的で、曲自体の良さも手伝い、一変にこの曲が気に入ってしまった次第。

それにしてもWesのバラード演奏も、かなり味わいがありましたが、それに現代的の感覚が加味されたこのRitenourの演奏も、また違っ味わい深さを感じることが出来るようになっていたと思います。


Wesの後継者というと、George Bensonの名がよく挙げられるますが、私としては最近のBensonは、あまりにもエンターティナーと成り過ぎて、そこから湧き出る一種のギンギラ感ーが鼻持ちならず、とてもWesの後継者などと言える存在ではないと考え続けていた矢先のこと。
そこで聴いたRitenourのこのプレイは、時と共にそのサウンド・スタイルは変遷するも、その伝統の本性はしっかりと継承されていたことがわかり、私のそれまでのRitenourの評価を大きく改めさせたともに、真底喜ばしさを感じることになりました。


さて、まず最初に、今年それまで私の偏見の目を改め見直させたアーティストの作品からお話をさせていただきましたが、次は、ここ数年、この楽器の次世代を担うアーティストは誰なのかと、探し見つけた作品のお話。

それが、この作品。

Steve Nelson  Sound-Effect.jpg


ヴィブラフォン奏者 Steve Nelson 2007年の作品”Sound-Effect”です。

ヴィブラフォン奏者と地味な存在というか、多くのプレヤーがひしめき合うピアノやサックスとは異なり、著名なプレヤーという数えるほどしかいないというのがその現状。
その中でもよく知られているアーティストというと、Milt JacsonとかGary Burtonton、Bobby Hutchesonの名がすぐに思い浮かぶのでは思いますが、その彼等も既に鬼籍に入ってしまっているか、現在も活動を続けているも、かなり高齢となってしまっているという状況。
そこでそうした私は、その彼等に続く次世代のヴィブラフォン奏者はと探すことにしたのですけど、その結果、出会ったのがJoe Lockeと、このSteve Nelsonという二人のアーティスト。

その中で、今回取り上げたNelsonのサウンドとの出会いとなったのは、以前にも取り上げた女流ピアニストのRenee Rosnesの2016年の作品"Written in the Rocks"という作品を聴いてのこと。

Rosnesの美しい優雅なピアノにさらに力を与え、サウンドの活力をさらに高めているその彼のプレイを聴いて、このヴィブラフォン奏者はただ物でない、いったい誰なのかと調べ探し出して、手にすることが出来たのがこの作品なのです。

その彼のヴィブラフォン・サウンド、それ以前に出会い聴いていたJoe Lockeと比べると、Lockeが現代音楽的要素も包含したGary Burtonをの流れを受け継いでいるアーティストだと感じたのに対し、こちらのNelsonは、Milt JacsonやBobby Hutcheson等の流れをくむ伝統を踏まえたオ-ソドックスなスタイルの持ち主で、そのサウンドは本来のジャズの醍醐味を満喫出来るよなアーティストだと思うのです。

それでは、ジャズの香り一杯の彼のヴィブラフォン・サウンド、この辺で1曲にいてみることにいたしましょう。
曲は、この作品の冒頭を飾る曲”One Thin Dime ”です。



この作品、Nelsonのヴィブラフォンに加えてもうひとつの聴きどころと思えるのは、このセッションの参加しているピアニストの存在。

聴いてみてピアニストのプレイが、Nelsonのプレイに更なるスウィング感を生んでいるようにお感じになられたのではと思います。

そのピアニストは、Mulgrew Miller。
90年代、名ドラマーTonny Williamsの秘蔵子として、数々の名演を残したMillerですが、Williams没後は、たびたび双方のリーダー作品でこのNelsonと組み、互いに息の合った名演を聴かせてくれているのですが、この作品でのプレイは、2013年に他界したMillerとNelsonが顔合わせた作品のほぼ最後のもの。

そうした意味でこの作品、Miller好きの私にとってはさらに印象深く心に残るものになってしまいました。


そうして3つめの作品は、
驚異の新進ドラマーのこの作品。

CIDER~Hard&Sweet~.jpg


日本の女性ドラマー川口千里の2016年の作品、”CIDER~Hard&Sweet~”です。

彼女のことを知ったのは、TVで放映された昨年の秋に開催された第16回東京JazzでのLiveでのこと。
最初その名を聞いた時は、知らない子だな、一体なんの楽器を演奏するのかと画面を見ていると、大きなドラムセットの後ろにまだ幼さの残る若い女の子の姿があったのです。

どう見ても彼女、二十歳そこそこの様子で、「えっ、この子がこのドラムを叩くの、あまり期待しない方がいいかも。」と思いながら、その演奏を見たのですが、演奏が始まった途端そのサウンドを聴いて超々々の弩ビックリ!!!

おそろしく速いスティック捌きから繰り出される的確なリズムと、その重量感。
スティック捌きの速さでは、最高のドラマーと称されるBilly Cobhamに、そしてそのリズムの重さは、あの名ドラマーSteve Gaddにも匹敵すると思えるほどの凄さ。

そして、そのプレイは単なるリズム・キーパーに留まらず、まるでホーン・セクションさながらにサウンド・ラインを形成していたのです。

この時の演奏は、キーボドとベースを加えたトリオの演奏だったのですけど、そのサウンドは一回りも二回りも大きな編成のもののように感じられ、これはドエライ・アーティストが登場した、それも日本の女の子であったことに、大きな衝撃を受けることになってしまったのです。

さて、それではその東京Jazzでの演奏、こんな映像を見つけましたのでご覧ください。



いかがでしたか。
今年2018年でまだ21歳の彼女。

この天才ぶりがどう開花して行くのか、今後その動静にもっとも注目して行きたいアーティストの一人だと思います。

それでは、最後にこの作品から、スローな曲でもそのテクニックの鮮やかさが冴える1曲を、聴いていただき今年のお話を終えることにしたいと思います。
曲は、”Longing Skyline”です。






いろいろなサウンドを聴き楽しんで来た2018年。
当ブログにお越しくださった皆様方、本当にありがとうございました。

新しい年2019年は、またどんなサウンドを追い求めて行くか、お正月にまたじっくりとプランを練りたいと思っています。
また、来年もよろしくお願いいたします。

Lee Ritenour・Stolen Moments

Track listing
1.Uptown (Lee Ritenour)
2.Stolen Moments (Oliver Nelson)
3.24th Street Blues (Lee Ritenour)
4.Haunted Heart (Arthur Schwartz / Howard Dietz)
5.Waltz for Carmen (Lee Ritenour / Mitch Holder)
6.St. Bart's (Lee Ritenour)
7.Blue In Green (Miles Davis)
8.Sometime Ago (Sergio Mihanovich)

Personnel
Lee Ritenour - Gibson L5 Electric Guitar
Alan Broadbent - Acoustic Piano (Roland Fender Rhodes on "St. Bart's")
Ernie Watts - Tenor Saxophone (except on "Haunted Heart")
Harvey Mason - Drums
John Pattitucci - Acoustic Bass
Mitch Holder - Acoustic Guitar on "Waltz for Carmen" and "St. Bart's"

Recorded
1990

Steve Nelson  Sound-Effect
Track listing
1 One Thin Dime  Written-By – Steve Nelson
2 Song For Tina  Written-By – Steve Nelson
3 Desafinado  Written-By – A.C. Jobim*, N. Mendonca*
4 You And The Night And The Music  Written-By – A. Schwartz & H. Dietz*
5 Night Mist Blues  Written-By – A. Jamal*
6 Sound Essence  Written-By – Steve Nelson
7 Up Jumped Spring  Written-By – F. Hubbard
8 Arioso  Written-By – James Williams

Personnel
Bass – Peter Washington
Drums – Lewis Nash
Piano – Mulgrew Miller
Vibraphone – Steve Nelson

Recorded
at M&I Recording Studios, New York, New York on June 12, 2007.



川口千里  CIDER~Hard&Sweet~
Track listing
1. 「FLUX CAPACITOR」 フィリップ・セス
2. 「Wupatki」 川口千里、安部潤
3. 「Longing Skyline」 川口千里、安部潤
4. 「Do Do Re Mi」 フィリップ・セス
5. 「Am Stram Gram」 フィリップ・セス
6. 「ZEMBLA」 フィリップ・セス
7. 「Tucheze」 フィリップ・セス、アルマンド・サバルレッコ
8. 「Ginza Blues 〜Intro〜」  川口千里
9. 「Ginza Blues」 フィリップ・セス
10. 「Park Moderne」 フィリップ・セス、アルマンド・サバルレッコ
11. 「Senri and Armand Groove」 川口千里、アルマンド・サバルレッコ
12. 「In Three Ways」 川口千里、フィリップ・セス、アルマンド・サバルレッコ

Personnel
川口千里 (Senri Kawaguchi) - ドラム
Philippe Saisse - ピアノ、キーボード、プログラミング
Armand Sabal-Lecco)- エレクトリックベース
Gumbi Ortiz- パーカッション (6, 10)

Release
Decenber 21 2016






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yuzman1953

今年一年、「音楽そして歴史散策」をたっぷり楽しませていただきました。
老年蛇銘多親父さん、良いお年をお迎えください。
by yuzman1953 (2018-12-31 22:38) 

yam

輝かしい新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
by yam (2019-01-01 12:43) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

yuzman1953さん

昨年は、大変ありがとうございました。
今年も、また楽しんでただけるよう頑張りたく、よろしくお願いいたします。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2019-01-02 09:09) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

yamさん

明けまして、おめでとうございます。
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。

by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2019-01-02 09:39) 

ぼんぼちぼちぼち

あけましておめでとうございやす。
今年も前向きにいきやしょうでやすo(◎o◎)o
by ぼんぼちぼちぼち (2019-01-03 19:36) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ぼんぼちぼちぼちさん

お互いに、前向きにいくことで良い1年だったと思えるよう頑張りましょう。

本年もよろしくお願いいたします。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2019-01-04 11:11) 

mk1sp

明けましておめでとうございます

リトナーのライブ映像の冒頭の笑顔がいいなあと
思った所「夫人の誕生日」の説明で腑に落ちました

今年も楽しくブログ拝見させて頂きます(*^_^*)
by mk1sp (2019-01-04 21:52) 

いっぷく

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします
by いっぷく (2019-01-05 03:31) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん
明けましておめでとうございます。

楽しくブログ拝見して頂いている由、励みになります。
今年も、またいろいろな体験を得つつ、ブログで語って行こうと思っていますのでよろしくお願いいたします。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2019-01-06 11:14) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

いっぷくさん
明けましておめでとうございます。

今年も、引き続きよろしくお願いいたします。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2019-01-06 11:16) 

ハンコック

明けまして、おめでとうございます。
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
川口千里さんのドラムさばき凄いですね。
スティックを長めに持ってますけど、
あれだけのスピードで叩けるとは。
by ハンコック (2019-01-13 09:06) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

明けましておめでとうございます。
川口千里、凄いでしょ!!

日本から、しかも女の子で、こんなドラマー出て来るとは、初めて見た時は、本当に驚きました。

今年は、どんな発見出会いがあるか、まだ1年が始まったばかりなのに、いろいろ思案をしているところです。

本年もよろしくお願いいたします。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2019-01-13 16:14) 

師子乃

おはようございます。

吹奏楽でjazzを少し演奏した経験がございます。

アドリブが上手い人は尊敬します!
by 師子乃 (2020-06-17 08:44) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

師子乃さん

どうもありがとうございます。
本当にそうですね。私もいつもジャズを聴きながら、常々、どうしたらこうしたフレーズが即興的に思い浮かぶのかと、感心させられています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-06-25 10:14) 

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