Be BopとCoolの融合;Dizzy Gillespie:Stan Getz・ For Musicians Only [音源発掘]

200年ぶりとも言われる天皇陛下生前譲位を祝うかのように満開となった桜の季節に発表された新しい元号”令和”。
そうした、命はぐくむ春の訪れと共に告げられたこの新しい時代の名前に、何かわくわくとしたものを感じる今日この頃ですが、今回も当ブログ、これまでに引き続き、”その昔聴くも、長い間我ライブラリーに眠ってしまっていた作品”発掘”のお話。

今回選ぶことにしたのは、新年早々拝見させていただいたログ友さんのStan Getzの記事からの教示を受け、もう一歩踏み込んでこのGetzというアーティストを聴き語てみたい思い、いざ語ろうとしたところ、考えてみると私がこれまで聴いて来たGetzの作品というと、60年代ボサノバで一世を風靡してからのGetzの作品が中心で、それ以前のものは余り真剣に聴いていなかったことに気付き、これでは語るには片手落ちと茫然。
やはり何か語る以上ボサノバ以前のGetzもしっかりと聴かねばということで、ライブラリーの奥底に眠っていたボサノバ以前のGetzのワン・.ホーン作品や、Verveレコードの残した数々のセッションを聴きあさり、なんとか語れるようになった中、これはと思ったのがこの作品。

Dizzy Gillespie For Musicians Only.jpg


モダンジャズの礎を築いた巨匠の一人としてその名を知られるトラペッターのDizzy Gillespieの1956年の作品である”For Musicians Only”。

「これ、Stan Getzのリーダー作品じゃないでしょう。」と思われるかもしれませんが、この作品を選んだのは、50年代のGetzをいろいろ聴いてみて、彼がリーダーとして吹き込まれた諸作品、確かにビ・バップの後を受けて生まれたクール・ジャズの旗手として、甘い美しい音色で知的なサウンドを奏でるその演奏は、柔らかく穏やかなやすらぎを感じさせてくれるものでありながら、それだけに終始せずソロで見せる類まれな感性のこもった心地よさを伴うそのサックス捌きの見事さは、どれも聴き語るに値するものがあると思えるものの、Verveレコードにおける既にクールの後を受け誕生したバップの洗礼を浴びた黒人ミュージシャンと白人である彼とのセッションでは、そのソフトなフィーリングの輪郭を保ちながらも、それに力強さとスリリングな音の交差が加わり、彼のリーダー作品にはなかった凄みが感じられたところに惹かれてしまい、選ぶなら、Verveレコードの作品の中からと考えるようになってしまった次第。

そして中でも選んだこの作品、パワーとスピード感溢れるジャズとして、現代ジャズの扉を開いたビ・バップ・ジャズの名曲が収められているだけではなく、ビ・バップ・ジャズの旗手である巨匠Gillespie とクール・ジャズの旗手Getzとの融合が、新しいビ・バップ・サウンドを生み出、現れたように感じ、この作品をチョイスすることとに相成った訳なのです。

それでは、そのBe BopとCoolの融合、早速、聴き始めることにいたしましょう。
曲は、そのものズバリ”Be-Bop”です。









ここでソロとっている3人のホーン・プレヤー、Dizzy Gillespie(tp) 、Sonny Stitt(as)、Stan Getz(ts),の中で、特に耳を傾けていただきたかったのは、当然ながら一番最後にソロをとっていたこの記事での主役のGetzのプレイ。
まず聴いて驚かされるのは、このビ・バップ時代を象徴する急速調の曲の下で、生まれ出る彼のサックスのソロ。
幾重にも重なりつ宙を飛翔するかの如く舞うそのサウンドは、彼のリーダ作品で聴く甘く安らぎを覚えるプレイとは異なった、音色こそ彼のものではあるものの、ビ・バップ全盛期における天才Charlie Parker のアルト・サックスを彷彿とさせるものがあるように思えてならないのです。

そうしたGetzの変貌ぶり、そこにはやはりGillespie、Stitt、ビ・バップをけん引して来た、この二人の黒人アーティストの存在があってこそ、激しくパワーフルな二人のプレーが彼の知的かつ思索的な意識の壁を貫き、ジャズ・ミュージシャンとしての野生を引き出し得た結果がもたらしたもののようにように思うのです。



さて、黒人アーティスト二人によって引きだれた、彼のまた違う一面を見せたこの演奏、今度は、それとは裏腹にGetzの存在が、時折粗野な一面をも見せるGillespie、Stittのサウンドに洗練された知的かつ繊細の色合いを施すこととなった、そんな演奏を聴いてみることにしたいと思います。

曲は、"Dark Eyes"です。



GillespieのミュートにHerb Ellisのギターが共鳴するよう寄添い、一際の哀愁を醸しだしたテーマで始まるこの曲、こうした繊細なアレンジはビ・バップの時代のジャズではほとんど聴いたことがなかったなあと思いつつ、続けて曲に耳を傾けていると、まず最初に現れたのが、Stan Getzのテナ-・ソロ。

彼の持ち味である甘いトーンと安らぎ覚える軽快な旋律で、その哀愁を増幅して行く様子、この前に聴いていただいたスウィートな音色はそのままに、急速で力強くスピーディーなソロを聴かせてくれた演奏とは裏腹に、バラード調のこの曲では柔らかくリラックスしたソロで、このセッションに参加したもう一人の白人アーティストのHerb Ellisと共に、熱い憂いを放散する黒人-アーティストのサウンドに潤いの花を添えている、そのように感じているのですがいかがだったでしょうか。

この演奏を聴いて、私自身、Getzというアーティスト、サウンドの壺を即座に掴み取り、その場にふさわしい自分の最良のサウンドを生み出すことできる稀有な力を持った偉大なアーティストであったこと、毎度のことですが、またあらためて教えられ、後に、彼がレコーディングに参加したCarlos Jobim等によって生み出されたボサノバが瞬く間に世界に広がったのも、この彼の稀有な才能があればこそだったのではと考えてしまうのです。


ところで、実はこの作品、私の若き日に初めて聴いた時、即気に入り、その後、ビ・バップを聴くきっかけとなった作品なのですが、実際に全盛期のビ・バップを聴いてみると、その印象はこの作品とは大いに異なっていて戸惑いを覚え、その後、この作品共々ビ・バップと遠ざかってしまうことになっていたもの。

しかし、今回これを聴いてみてその訳、その違和感の大元にはGetzの存在があって、彼がこの演奏に加わることによって、また違ったビ・バップが生み出されたということ、そのことに気付かされ、それと共に、またビ・バップも、今回得た視点でビ・バップの作品も聴き直さなければ考えることになりました。



それにしても、”For Musicians Only”というこの作品のタイトル、その中には、「音楽には黒人も白人も、ビ・バップ、クールといったジャンルもなく、そこには、それぞれ異なったアイデンティティ持つ者の集まりであるけれど、それらが共に手を取り合って挑めば、それまでになかた新鮮なサウンドが生まれて来る。ここに集まったのは、それを可能にできる良きミュージシャン達なのだから。」と、そうした意味が隠されているように思えてくるあたり、なかなか憎い。

レコードの盤の裏でGillespieが、してやったり!!とほくそ笑んでいる姿が見えて来るような気がしてきました。

Track listing
1."Bebop" (Gillespie) - 12:48
2."Dark Eyes" (Traditional) - 12:10
3."Wee (Allen's Alley)" (Denzil Best, Gillespie) - 8:28
4."Lover Come Back to Me" (Sigmund Romberg, Oscar Hammerstein II) - 9:33
5."Dark Eyes" [Alternate Take] - 9:50 Bonus track on CD reissue

Personnel
Dizzy Gillespie - trumpet
Sonny Stitt - alto sax
Stan Getz - tenor sax
John Lewis - piano
Herb Ellis - guitar
Ray Brown - bass
Stan Levey - drums
Recorded
October 16, 1956 Radio Recorders, Los Angeles


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ハンコック

この盤はB面ばかり聴いています。
やはりA面よりゆったり聴ける気がするのです。
A面は早すぎて、まだ理解が及びません。
Dark EyesとLover Come Back To Meは、
何度聴いても飽きないですね。
by ハンコック (2019-04-18 22:23) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

おっしゃる通りDark EyesとLover Come Back To Meは、何度聴いてもジーンと来る良き味わい深さがある演奏ですね。

ただ、私の場合、まだジャズを聴き始めて間もない頃、テンポの速い"Bebop"や."Wee”を聴かされ、よくわからないもののその強烈な印象が心に残ってしまいましてね。

今回、じっくりと聴き直してみて、ビ・バップ全盛から約10年後、往時の野性味は残しながらも、より音楽的に洗練されているそのサウンドに気付かされ、以前に増してこの作品が好きなってしまった次第。

今回、若き日に感じ取ることが出来なかった新たな感慨を得たこと、サウンドだけではなく歴史的流れを把握しながら聴くことのジャズならでは面白さ、それを体験することができたように思っています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2019-04-20 22:38) 

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