喜劇王が生んだ不朽の名曲;Smile [名曲名演の散歩道]

梅や河津桜など早咲きの桜の、例年になく早い開花。

しかし、そのひと足以上の早い開花、この冬、雪国では高速道路で急な大雪で車が立ち往生してしまう程の事態がたびたび発生した状況を考えると、それはなんとも不思議こと。

そうした疑問を抱いてたところ、先日TVのお天気解説を見ていると、今年の冬は寒かったのか、暖かったのかというと、それは暖冬であったとのこと。
これも地球影響だと言うのですが、今年、未曾有の大雪をもたらしたの原因は、この温暖化の影響で北極圏を回り囲む冷たい空気の流れが大きく蛇行し、時には日本の上空まで張り出すことがあって、それが、それまで暖かった地上より例年以上の量の水蒸気を立ち上らしめ、その大量の水蒸気が北極圏の冷たい空気に冷やされて大量の雪となり、地上に舞い降りるに至ったためだというのです。

そんな訳で雪の降らない所でも、その著しい寒暖差に翻弄され、その対応に苦闘することが多かった今年の冬、私のような御老体の身を持つものとしては、その体調の管理にいつも以上気を使わなければならなくなってしまったのです。
とは言っても、やはり、一足早い春の訪れは老体の身にとっては得難くなによりも有難いもの。

そうしたことを思っていた矢先、ちょうど仕事に間が出来たところで通り掛かった寺の境内を覗いてみたところ、そこにあったのは満開の桜。
まだ3月になったばかり頃なので、この桜はピンクが色濃い河津桜。
その艶やかさが何とも言えず、あっさりと仕事はそっちのけ、いざ心はお花見へと洒落込むことになってしまいました。

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降って湧いた春の装いを御覧に入れたところで、早咲きとはいえ桜の花が咲くと厳しかった冬も間もなく終わり、命の躍動が始まる春の空気が感ぜられ、どこからとなく微笑みが湧いてくる、そうした気分になって来るのではと思うのですが、今回のテーマは「名曲名演の散歩道」。

そこで選んだ曲は、春来るの微笑みに思いを寄せてあの名曲”Smile”といたしました。


さて、この”Smile”という曲、その作曲者は、映画界に大きな足跡を残し一世を風靡したあの大喜劇王Charlie Chaplin。
そのChaplinが、イタリアの作曲家Giacomo Puccini(プッチーニ)のオペラ”Tosca”からインスピレーションを得、生まれたのがこの曲だというのですが、その登場はChaplin自身が監督・製作・脚本・作曲を務めたことで知られる1936年の映画「モダンタイムス」のラストシーンのサウンド・トラックだとのこと。

ということで、まずはこの名曲、サウンド・トラックとして流れるこの映画のラスト・シーンを見ながら始めることにいたしましょう。



この曲、今ではヴォーカル付きが定番で、そちらの方が馴染みだという方が大半ではないかと思うのですが、ご覧になってわかるように、この曲の元は歌詞のないインストルメンタル曲。

実は、この曲に歌詞がついたのは、この曲の登場のから20年弱ほどが過ぎた1954年のこと。
John TurnerとGeoffrey Parsonよりタイトルと詞がつけられ、ジャズ・ピアニストで歌手のNat King Coleが最初のバージョンを歌い録音したことによりヒット、この年のビルボードチャートで10位を獲得することになったのだとか。


それでは、そうしたいわれの歌詞の付けられた”Smile”、まずはその本家本元であるNat King Coleの歌唱をそのつけられた詞にも注目しながらじっくりと味わってみることにいたしましょう。







「微笑むのさ、心が痛むときでも 微笑むのさ 心が苦しいときでさえも」この歌詞に触れると一年を過ぎてもなお日常に憂いを誘うコロナの恐れに、知らずがままに立ち向かう力が湧いてくるようにも思えて来ます。

そして、ペーソス漂うメロディがその言葉の意味を深く聴き手の心に深く刻んで行く。
極貧の幼少時代を過ごし、成功してからも、多くのスキャンダルや成功者ゆえの非難を浴びながらも多くの名画を生み出して行ったChaplinだからこその楽曲だと思います。


さて、こうして世に出たこの名曲、今やNeil SedakaやEric Clapton、Perry Como、Rod Stewart、そして槇原敬之、MISIAなど多くの名立たるアーティストたちによってカバーされ続けているのですが、いざ、どのアーティストのカバーに立ち寄り聴いて行くかとなると、その選択はなかなかの悩ましいところ。

そこで、私がまず取り上げる事にしたのは、クラシックのアーティストのよる”Smile”の演奏。
ラトビア出身の巨匠 ヴァイオリニストのGidon Kremerの演奏から聴き始めることにいたしましょう。



澄んだ音色で奏でられる思索的雰囲気に満ちた”Smile”。
この曲が収められていたKremerの”Le Cinema"という作品、私がCDショップを歩いていた時、目に入って来た子供の時に見た思い出深い「モダンタイムス」のラストシーンが描かれたジャケットに惹かれ,思わずGetしてしまったもの。
そうして聴いた”Smile”、そこには 流れゆく時の空気とその流れに連れ去れることなく立つ普遍的な何かあるのを感じ、私にとっては思い入れ深い演奏となってしまったのが、この”Smile”だったのです。



さて、お次の”Smile”は、
今度はガラッと趣向を変えて、陽気かつスウィンギーな”Smile”の演奏。

ということで、ジャズ・トランペッターのKenny Dorhamのバップ感溢れる”Smile”を聴いてみることにいたしましょう。



軽快なリズムに乗せて微笑み踊りたくような”Smile”。
痛みも苦しみも忘れさせてくれる躍動感に満ちた”Smile”だと思います。

どちらかというと、渋みのあるアーティストとも言えるDorham、いつもの感性を生かした渋みのある”Smile”とはせずに、それを逆手に取った陽気でリズム感のあるサウンド・アプローチをしたこの演奏、この曲のまた違った魅力を引き出しているあたりに、Dorhamのしたたかさを感じます。


ここまで、聴き進んできた”Smile”。
そういえば、先般亡くなったChick Coreaも 1994年のソロ作品”Expressions (邦題; 星影のステラ )”の中でこの曲を演奏していたことを思い出して、その音源を探していたところ見つけたこの映像。
CoreaとヴォーカリストのBobby McFerrinのBlue NoteでのSmile溢れるズテージ、観客とのコラボに暖かい人との触れ合いの心を感じ、ついつい載せてしまいました。



演奏しながら人々をSmileの息吹を撒いて行くCoreaとMcFerrin、音楽の楽しさだけではなく心に晴れやかさと英気を与えてくれる、サービス精神に満ちたステージでした。

それにしてもMcFerrinに歌詞カード与えられこの曲を歌った観客の女性の歌声、ニューヨークのため息と言われたあの八代亜紀も敬愛している女性ヴォーカリストの Helen Merrill 風で、この演奏は私のお気に入りの一つとなってしまいました。


私の新たなお気に入りを見つけたところで、その勢いに乗せ以前よりお気に入りの”Smile”の演奏を一つ。
それは、ジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子の”Smile”。
その情感豊かな演奏をお楽しみください。



デビュー当時からずっと聴いている寺井尚子、年々その音楽のスケールが増して行く様子を好ましく思いその動向に注目し続けて来たのですが、この”Smile”の演奏もその期待に応え、この曲に秘められた思いを音に託し紡ぎだしているような、ドラマチックな豊かさを感じる演奏になっているように思います。


それにしても”Smile”、本当に多くのカバーがあり、そのそれぞれが違った微笑みを届けてくれている。
シンプルで親しみやすく、それぞれの人の心に希望の明かりを灯して行く、ペーソスと笑いで今も多くの人に生きることの普遍的な教えを届けてくれているCharlie Chaplinという人物、音楽においても同様にであることに、あらためてその偉業の大きさを感じています。

と、今回は、寺井尚子の演奏でEndとしようと思ったのですが、この稿を書きながらChaplinのことを調べているうちに、誹謗中傷に悩まされながらも大きな功績を残したChaplinの人生と重なる歩みを感じる一人のアーティストの姿が思い浮かんできました。

となれば、最後はそのアーティストの演奏、聴かなければ収まらない。

ということで、

締め括りは!

King Of Popと称された現代を語るには欠かせないアーティスト。



Michael Jacksonの”Smile”をお聴きください。



Michael の歌を聴いていると何故かChaplinが重なってくる、そんな感じしませんでしたか。
半世紀以上前の曲にMichaelが新しい時代の命を吹き込んでくれている。

Michael自身好きだと言っていたこの曲、この歌唱はMichaelこそがこの曲の真の心を引き継ぐものであったこと それを如実に語っているように思いました。


早くもソメイヨシノが開花をした場所のある今年の春。
しかし、こうしてじっくりと聴いて行くとお花見すらままならぬ状況の今、この曲”Smile”はそうした憂いの日々を過ごす心の在り方を教えてくれているような気がして来ました。









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raccoon

こんにちは。コロナ禍の今、「Smile」は、疲れた時に、癒してくれそうですね。
最近見た映画「ジョーカー」の中にも使われていたことを思い出しました。
by raccoon (2021-03-17 06:58) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

raccoonさん

映画「ジョーカー」の中にも使われていたというお話、この曲には、やはり時代越えて人の心に訴える何かがあるのだなと思いました。

どうもありがとうございます
by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2021-03-18 17:24) 

ヒサ

ホント名曲ですよね。
チャップリン、喜劇映画だけでなく、音楽の才能も高かったなんてスゴイです。
マイケルの歌声もこの曲にぴったりです。
うーん、名曲だ〜

by ヒサ (2021-03-22 20:20) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ヒサ さん

ちょっと前衛的なジャズ・ピアニストJackyJacky Terrassonの”Smile”の演奏をたまたま聴いてしまったことから、この曲のことを思い出し、どんなアーティストがこの曲をカバーしているかに興味が湧き、いろいろ聴いてみたのですけど、どの演奏も個々の思い入れが込められていて、そうした思いを受け止めながらやさしく響いてくるこのメロディに、ちょっとした凄みを感じていました。

チャップリン! その才能の豊かさ、本当に凄いですね。



by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2021-03-24 17:13) 

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