ロックに心身を染めた中世の吟遊詩人・Jethro Tull;Aqualung [音源発掘]

寒暖の差が激しく今だ季節が定まらないかのような日が続く中、空気は日々秋の深まりが増してくのを感じながら、今回聴くのは、前回に引き続き懐かしの1970年代のプログレサウンド。

前回はハードではあるも現代クラシックの面持ちが強いEL&Pの作品を聴いてまいりましたが、今回は古典的トラディショナルの香りを多分に感じさせる、この作品を聴いて行くことにいたしました。

Jethro Tull;Aqualung.jpg


それの作品は、英国のロック・バンドJethro Tullが1971年発表した作品”Aqualung”です。

18世紀の英国の農学者Jethro Tullに由来するという名を持つこのバンド、郷愁すら感じるブリティッシュ・トラディショナルの香りを持ったその特徴的なサウンドと共に、茶を飲み談笑しながらさりげなく上品なユーモアを届けてくれる極めて英国人らしい一面を感じさせる、その唯一無二ともいえる他に類例を見ない個性的なスタイルで、新なロックの世界を切り開いた彼等。

1968年にデビュー作”This Was(邦題;日曜日の印象)” を発表、当初はギターのMick Abrahamsの影響もありブルース・ロック的スタイルのバンドだったのですが、このデビュー作限りでAbrahamsが脱退、Ian Andersonがバンドの主導権を執ると、そのスタイルはブリティッシュ・トラッドの色彩の濃いものへと変わり、4作目となる本作は、全英および全米でアルバム・トップ10入り果たすなど、彼らの地位を不動のものとしたその到達点ともいえる名作。

そうしたこの作品、その最大な魅力は、どこか吟遊詩人を思わせるIan Andersonのアコースティック・ギターとヴォーカルに加え、ヴォイスを絡ませたワイルドさと古きイングランドの面持ちを感じさせるフルート・プレイ。


それでは、そうしたJethro Tull、まずは1曲、聴いていただくことにいたしましょう。
曲は”My God”です。








私が彼等を知ったのは、1972年の来日公演を特集した記事を専門誌で見たことが切っ掛けで、そこで見た古風な出で立ちに案山子のような一本足立ちでフルートを演奏するIan Andersonの姿に、これは聴くかいがあ何かありそうと、本作を手にしたのがその始まり。

そのIan Andersonのフルートは、ジャズの盲目のマルチリード奏者Roland Kirkの影響が強いとの評を見たのことが、これは一聴すべきとの気持ちを促されたことがその大きな原因だったのです。
しかし、そのプレイを実際に聴いてみるとを聴いてみるとKirkというよりも、同じくジャズ・フルート奏者のJeremy Steigの方にその近似性が感じられ、そうしたことから、今では彼のデビュー・アルバムにKirk作の”Serenade To A Cuckoo”のフルートプレイを収めていることからして、その影響の大元はKirkにあるものの、その後、ブリティッシュ・トラッドの色彩を強めて行く中で必然的により詩的なJeremy Steigのスタイルに近づいていったものではないかと、私としては考えています。

さて、このJethro Tull、当時来をしていたものの、その公演回数は1972年の来日では、東京・大年阪各1日、74年は東京2日、名古屋、大阪各1日だけと、他のビッグネームとに比べるとかなり少なかったのです。
それは、68年のデビュー作発表以来毎年アルバムを発表、好セールスを上げていたのにも関わらず、一切シングル・カットを出していなかったことで、当時の日本の熱心なロック・ファンの間では、その実力は大きく評価され熱烈な人気を獲得していたものの、巷の人気をさらうようなバンドではなかったことが、そうした結果を生んだのでは思っているのですが、しかし、そのライブは。

私も1974年東京公演に行ったのですけど、その記憶によれば、当日会場に入ると席は満席で、そのうえ日本のプロのアーティストと思しき人の姿も多く見え、私の翌日の公演に参加した妹などは、彼女の席の近くにつのだひろの姿を見たとか、他のライブとはまた違った雰囲気があったのです。
そして、そのステージは、演奏を聴かせるだけではなく、演劇と一体化した一つのストーリーを持った演出があるという、他のアーティストとは大きく一線を画したものあったこと、その時の様子は深く脳裏に刻みに残っています。

プロフェッショナルや通から大いなる注目を集めていたJethro Tull、そうした状況を裏付けるかのように、その影響は、英国のビッグ・ネームの間にも大きな痕跡を残しています。
それは、あのLed Zepeelin の大きくアコースティク・サウンドをフューチャーした彼らの作品”Led Zeppelin IV”を始め、その影響を自ら表明しているDeep Purple、RainbowのRitchie Blackmoreやヘヴィメタルの代表格であるIRON MAIDENなど、そこに現代ブリティッシュ・ロックの根源に彼らの存在が大きな影響を残していることが推察されます。


そうしたJethro Tullを信奉するビッグ・ネーム、総じて英国のHM系のアーティストが多いように感じますが、80年代以降はJethro Tull自身もそうしたアーティストから逆影響を受けたのか、次第にHM化の傾向を強めて行くことになります。
そして1989年、本命と目された Metallicaの”One”を押しのけて、彼らの”Crest of a Knave”でグラミー賞の最優秀ハード・ロック/メタル・パフォーマンス・ヴォーカル・オア・インストゥルメンタル賞を受賞しているのです。

そこで今度は、後のJethro Tull、HMへ進展の潜在性を予感させる曲を、お聴きいただくことにいたしましょう。
曲は、”Aqualung"、Official Music Videoでお楽しみいただくことにいたしましょう。



ブリティッシュ・トラッドとハード・ロックが程よくブレンドした、ハードではあるけれど、どこかいにしえへの郷愁を想起させる、Jethro Tullならではの唯一無二の音世界。

シングル・カットによるヒット曲を持たず、ロックの歴史大きくその名を残したJethro Tull。
やはり、それは彼らの持つ唯一無二の独自性への探求の賜物であり、デビューから半世紀経つ今も活動を続けられるエネルギーの源ではないかと考えてしまいます。

半世紀近く昔に出会った連中なれど、今だその新鮮な響きは変わらず、秋という季節を迎えるとまた聴きたくなる。
Jethro Tullというそのバンド、テクニックを誇るバンドではないけれど、唯一無二のその魅力、もう一度見つめ直していただければと思います。 


本記事の最後に、1976年の彼らのライブ映像を掲載いたしましたので、そのサウンドと共に、英国人らしい品の良いユーモアを感じるそのステージをお楽しみください。

Track listing
All tracks are written by Ian Anderson, except where noted.
1.Aqualung (Ian Anderson, Jennie Anderson)
2.Cross-Eyed Mary
3.Cheap Day Return
4.Mother Goose
5.Wond'ring Aloud
6.Up to Me
7.My God
8.Hymn 43
9.Slipstream
10.Locomotive Breath
11.Wind-Up

Personnel
Ian Anderson – lead vocals, acoustic guitar, flute, production
Martin Barre – electric guitar, descant recorder
Jeffrey Hammond (as "Jeffrey Hammond-Hammond") – backing vocals (on "Mother Goose"), bass guitar, alto recorder, odd voices
John Evan – piano, organ, Mellotron
Clive Bunker – drums and percussion

Recorded
April 1970 – February 1971
Island Studios, Morgan Studios






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